短頭種とは?
パグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリアといった犬種に共通する特徴には、どういったものが挙げられますか?
頭の大きさに対して鼻が短いことが一番の特徴ではないでしょうか。
これらの犬種は、その外見上の特徴から短頭種と呼ばれています。
シーズー、ペキニーズ、チワワなども短頭種に分類されています。
ゴールデンレトリーバーやジャーマンシェパードなどをイメージすれば、短頭種の鼻が短いことは明らかですよね。
短頭種の熱狂的なファンは多いと思います。
特にパグやフレブルでは、鼻がぺちゃっとした平坦な顔面、丸っこい頭、目が離れているといった点が可愛いのではないでしょうか。
これらの短頭種が愛される理由として、頭が胴体に対して大きい点や鼻がつぶれている点などが人間の赤ちゃんに似ているからだという説もあります。
それではここで、これらの愛くるしい短頭種を飼っている人にお伺いします。
短頭種気道症候群という病態を知っていますか?
もしも知らなければ、以降の文章を読んでいただければと思います。
短頭種気道症候群の概要
短頭種気道症候群とは、パグ、フレブル、ボストンテリア、イングリッシュブルドッグなどの短頭種にしばしばみられる病態です。
気道は、空気の通り道であり、空気は鼻や口から入り、喉頭(喉の部分)、気管、最終的に肺へと送られます。
空気によって肺が膨らみ、酸素と二酸化炭素が交換された後、今度は逆の経路で外へと出ていきます。
本来、空気はスムーズに通り抜けるのですが、短頭種では気道が狭くなっており、空気の通りが良くないことがしばしばあります。
その理由としては、
・鼻の孔が小さい(外鼻孔狭窄)
・軟口蓋(俗にいうのどちんこ)が厚くて長い
・舌が分厚い
・扁桃が大きい
などが挙げられます。
これらの原因によって、短頭種は呼吸がしづらい状態となっています。
短頭種は、しばしば「ゼーゼー」、「ガーガー」と音を立てて呼吸をしていることがありますが、これらは決して普通ではなく、呼吸がしづらい状態となっています。
短頭種気道症候群で注意しないといけない点は、進行性であるということです。
「ゼーゼー」、「ガーガー」と音を立てた呼吸は努力性呼吸といいます。
頑張って胸を動かすことによって、呼吸をしているのです。
この努力性呼吸は、軟口蓋をさらに厚く長くし、舌や扁桃を大きくします。
すると、さらに呼吸がしづらくなり努力性呼吸をするといった悪循環が起こるのです。
短頭種気道症候群の臨床徴候
短頭種気道症候群でみられる犬の徴候としては、
・呼吸困難
・チアノーゼ(酸素がちゃんと取り込めていない状態)
・失神
・高熱
・嘔吐や吐出
などがあります。
呼吸がちゃんとできなくなると、呼吸困難となり、それが重度となるとチアノーゼや失神を引き起こすほどになります。
呼吸は体温調節に重要であり、呼吸がしづらいことによって高熱が出やすくなってしまいます。
また、呼吸が苦しいと、わんちゃんは興奮してさらに高熱となってしまいます。
40℃を超えるほどになると、脳に障害が起こり得るので気を付けなければなりません。
嘔吐や吐出といった消化器症状は、努力性の呼吸によって、胸の中の圧変化が大きくなることで生じるといわれています。
最も怖いのは、喉頭虚脱と誤嚥性肺炎です。
本来、喉頭は呼吸をする時のみ開閉しますが、努力性呼吸が継続すると、喉頭に負荷がかかり開閉がしっかりとできなくなります。
喉頭虚脱が重度となると、少し運動しただけで呼吸困難になり、場合によっては死に至るケースもあります。
誤嚥性肺炎は、胃酸などの異物が気道内へ入って起こるもので、これも命を脅かす病気です。
重度の短頭種気道症候群を持つ犬では、誤嚥性肺炎のリスクも上がってしまうため、注意が必要です。
短頭種気道症候群の治療
短頭種気道症候群は、内科療法と外科療法によって治療します。
内科療法
内科的な治療は、あくまで臨床徴候の緩和を目的に行われるもので、根本的に解決するものではありません。
しかし、わんちゃんにとっては、幾分か楽な状態になるので重要といえます。
具体的には、
・酸素吸入
・鎮静薬の投与(興奮を落ち着かせるため)
・冷却(熱を下げるため)
などが挙げられます。
冷却に関しては、夏や運動後などで発熱しやすいときには重要となります。
体温計で39℃後半~40℃を超えてくるようだと、冷やした方が良いでしょう。
参考程度にですが、こちらは動物病院でもよく使われている動物用の体温計になります。
こういった首元を冷やすことができるバンダナも有効です。
外科療法
短頭種気道症候群は、気道が狭くなっているため、それらを広げる手術を行います。
最も一般的なのは、
・外鼻孔拡張
・軟口蓋切除
の二つです。
一つ目の手術は、鼻の孔を広げてあげる手術になります。
二つ目の手術は、長くなっている軟口蓋を切除する手術です。
これらの手術を行うことで、呼吸状態は幾分か改善するといえます。
それ以上に、短頭種気道症候群の病態の進行を抑えることが利点です。
その他、重症度に応じて、他の手術も組み合わせることもありますが、ここでは割愛させていただきます。
短頭種気道症候群の予防
短頭種気道症候群の進行を防ぐために、予防的に手術をする場合があります。
日本では、まだまだ一般的に行われているわけではありませんが、ヨーロッパなどでは予防的な手術を推奨している先生も多くいます。
パグ、フレブル、ボストンテリアをはじめとする短頭種を飼っていて、わんちゃんの呼吸が苦しそうなのであれば、呼吸器に詳しい先生に診てもらうことをお勧めします。
呼吸器外科に詳しい先生として、アトム動物病院の米澤先生がいます。
米澤先生は、獣医の学会でもよく発表している有名な先生で、呼吸器外科を得意としている先生です。
東京近辺に住んでいる場合には、米澤先生に診てもらうのも良いかと思います。
短頭種症候群の手術をすべきかどうかについては、米澤先生をはじめとした呼吸器外科を得意とする先生に相談すると良いでしょう。
長々と短頭種気道症候群について解説しましたが、理解して頂けましたでしょうか。
短頭種気道症候群で苦しんでいるわんちゃんが少しでも減ることを願っております。
もしよろしければ、SNSなどでシェアして頂ければ幸いです。
【経歴】
北海道大学獣医学部卒、東京大学獣医外科研究室博士課程
米国ペンシルバニア大学 客員研究員
【所属学会・資格等】
Veterinary Cancer Society (獣医がん学会)
【得意分野】
腫瘍学、免疫学