がんの三大療法とは、外科手術、 薬物療法、 放射線療法の3つであることは皆さん知っていると思います。それでは、現在、人医療で第四の治療法として注目を受けているがん免疫療法については知っていますか?がん免疫療法は、既存治療と比べて顕著な治療効果を示している例も多々あり、現在人医療で最もホットなトピックの一つです。本記事は、次のような方におすすめです。

  • がんの分野に興味がある獣医師
  • がん免疫について興味がある獣医師
  • 最先端の獣医学研究の情報を知りたい方

はじめに

 がんを根治しうる最適な治療法は外科手術ですが、獣医療では早期発見が難しいこともあり、手術適応外になる症例もしばしばみると思います。ステージの進んだ症例では、化学療法を行いますが、効きが良くない腫瘍もあれば、リンパ腫のように一度寛解しても、耐性が生じて再燃することもしばしば。

 がん免疫療法が人医療で注目を受けているのは、既存治療と比べて明らかに良い効果を示す例がみられるからです。抗PD-1/PD-L1抗体、抗CTLA抗体などは、数年前にがん治療のブレークスルーとして話題に上がりました1)。近年は、キメラ抗原受容体発現T細胞療法(CAR-T細胞療法)が注目を受け、盛んに研究が行われています2)

 私の個人的な意見ですが、がん免疫療法は、数年もすれば獣医療でも盛んに使われるようになると思います。というのも、既に米国ではがんワクチンが市販されていますし、国内でも山口大学、北海道大学、東京大学の研究グループが既にペットでの臨床試験を進めているからです3-5)

 ばりばり獣医臨床で働いている方は、がん免疫療法についての情報がまだ入りづらい環境かと思いますが、確実に学ばないといけない分野になると思います。それでは、がん免疫の基本、がん免疫療法の仕組み、今後の展望について解説していきます。

がん免疫の基本、がん免疫サイクルとは?

 免疫とは、生体に備わっている大切な防御機構で、非自己を認識して排除するものですよね。それでは、自己と非自己とは何でしょうか?自己は、身体を構成する成分で、あらゆる細胞や臓器がそれにあたります。非自己は、細菌や寄生虫、ウイルスなどの微生物、アレルギーを引き起こすアレルゲン、移植片などがありますね。

それでは、がんは自己でしょうか?非自己でしょうか?これは非常に難しい質問ですが、自己でもあり非自己でもありますし、自己由来の非自己といってもよいと思います。 がん細胞は、元々は自己の細胞由来ですが、遺伝子変異が起きがん化した細胞群です。さらに異常に増殖したがん細胞の中には、さらなる遺伝子変異が生じ、本来の自己が持たないor発現が低い抗原(がん抗原)を発現するようになります。がん抗原は、免疫細胞ががん細胞を認識するための目印になります。

  次にがん免疫について解説します。がん免疫とは、自己由来の非自己であるがんを攻撃する免疫のことです。本当は非常に複雑な仕組みになっているのですが、がん免疫で重要といわれる免疫サイクルを簡単に解説します。がん免疫の最初のステップは、がん細胞ががん抗原を放出するところから始まり、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞(APC)ががん抗原を取り込みます。次にAPCはリンパ節にて、リンパ球に抗原提示を行い、T細胞を教育します。教育されたT細胞は、血流にのってがん組織へと遊走し、がん細胞をがん抗原特異的に攻撃します6)

なぜ生体の免疫でがんを倒せないの?

 それでは、本来備わっている免疫機構があるのにも関わらず、なぜがんは発生するのでしょうか?それは、がん細胞は、様々な機序で、その免疫機構からの攻撃を逃れることができるからです(免疫逃避機構)。機序は、様々ありますが、例えば、がんによる免疫細胞の抑制7)や、がん細胞上のMHCの消失8)により免疫細胞から攻撃を免れているといった機序があります。

 以下の図では、がん免疫で最も重要であると考えられているT細胞が、がん細胞が発現するPD-L1という免疫チェックポイント分子によって、免疫抑制を受けている様子を示しています。

がん免疫療法とは?

 ここまでで、免役細胞ががん細胞を倒す能力を備えていること、がんが免疫細胞からの攻撃から上手く免れていることを解説しました。がん免疫療法は、免疫細胞によるがんの攻撃を促進してあげることがコンセプトになります。がん免疫療法には、多岐にわたるアプローチ法がありますが、現在最も有名なものは免疫チェックポイント分子阻害剤です。上の図で示したようなPD-L1/PL-1による免疫抑制機構を抗体によってブロックしてあげることで、がん細胞によるT細胞の抑制を解除してあげることで、T細胞ががん細胞を再び攻撃できるようになります。免疫チェックポイント分子阻害剤は、人医療においてがん免疫療法のブレークスルーを引き起こした治療法ですし、獣医療でも既に臨床試験は行われていますので、頭に入れておくと良いでしょう。

獣医学領域におけるがん免疫療法の展望

 既に米国では悪性黒色腫を対象にしたがんワクチンは市販化されていますし、国内でも免疫チェックポイント分子阻害剤などの臨床試験は進んでいます。既に獣医療領域でも、免疫療法の時代は間違いなく来ていますが、今後はキメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T細胞)療法という治療法の開発も期待されています。CAR-T細胞療法は、人医療ではB細胞性の白血病で治療抵抗性となった患者において劇的な治療効果を示し、現在注目を受けています5)。CAR-T細胞療法は、患者さんからT細胞を採取し、がん細胞を攻撃できるように遺伝子改変し、大量に培養し患者に戻すという方法です。その他、免疫よりがんを倒すコンセプトの治療法は、次から次へと出てきていますので、今後の研究に期待したいところですね!

まとめ

 長々となってしまいましたが、以下の点を押さえておくと良いでしょう。

  • がんは自己由来の非自己であり、免疫細胞(主にT細胞)はがん細胞を倒す能力を持つ。
  • がんはあらゆる機構で免疫細胞からの攻撃を逃れている。
  • がん免疫療法は、免疫サイクルを活性化し、免疫によりがん細胞を倒す。
  • 免疫チェックポイント分子阻害剤やCAR-T細胞療法などががん免疫療法の代表例として挙げられる。

参考文献

  1. Davidson-Moncada J, Viboch E, Church SE, Warren SE, Rutella S. Dissecting the Immune Landscape of Acute Myeloid Leukemia. Biomedicines. 2018;6(4):110. Published 2018 Nov 25. doi:10.3390/biomedicines6040110
  2. Rafiq S, Hackett CS, Brentjens RJ. Engineering strategies to overcome the current roadblocks in CAR T cell therapy. Nat Rev Clin Oncol. 2020;17(3):147–167. doi:10.1038/s41571-019-0297-y
  3. Nemoto Y, Shosu K, Okuda M, Noguchi S, Mizuno T. Development and characterization of monoclonal antibodies against canine PD-1 and PD-L1. Vet Immunol Immunopathol. 2018;198:19–25. doi:10.1016/j.vetimm.2018.02.007
  4. Maekawa N, Konnai S, Takagi S, et al. A canine chimeric monoclonal antibody targeting PD-L1 and its clinical efficacy in canine oral malignant melanoma or undifferentiated sarcoma. Sci Rep. 2017;7(1):8951. Published 2017 Aug 21. doi:10.1038/s41598-017-09444-2
  5. Maeda S, Murakami K, Inoue A, Yonezawa T, Matsuki N. CCR4 Blockade Depletes Regulatory T Cells and Prolongs Survival in a Canine Model of Bladder Cancer. Cancer Immunol Res. 2019;7(7):1175–1187. doi:10.1158/2326-6066.CIR-18-0751
  6. Mellman I, Coukos G, Dranoff G. Cancer immunotherapy comes of age. Nature. 2011;480(7378):480–489. Published 2011 Dec 21. doi:10.1038/nature10673
  7. Chen DS, Mellman I. Elements of cancer immunity and the cancer-immune set point. Nature. 2017;541(7637):321–330. doi:10.1038/nature21349
  8. Garrido F, Aptsiauri N. Cancer immune escape: MHC expression in primary tumours versus metastases. Immunology. 2019;158(4):255–266. doi:10.1111/imm.13114