インスリノーマとは
インスリノーマは、膵臓のβ細胞由来の腫瘍です。多くの場合、腫瘍細胞は機能的であり、低血糖でもインスリン分泌が制御できないことが特徴的です。そのため、インスリノーマの患者では低血糖にも関わらず、血中のインスリン濃度が正常あるいは上昇していることが特徴です。
[aside type=”normal”]ちなみに、インスリノーマの臨床徴候は、制御不能のインスリン分泌に関連した低血糖にも関わらず、インスリノーマ細胞は、他のホルモン(グルカゴン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチド、成長ホルモン、インスリン様成長因子1、ガストリンなど)も分泌することが報告されています(免疫組織化学的染色による解析)[/aside]
人と犬のインスリノーマの違い?
人のインスリノーマの90%は、孤立性で良性とされ、5-10%が多発性で内分泌性腫瘍タイプ1(MEM1)であるとされています。一方で、犬のインスリノーマは、悪性度が高いことが多いとされます。約50%の犬のインスリノーマは転移しており、転移部位は、領域リンパ節、肝臓が最も一般的です。肺転移はあまり一般的でないそうです。
犬の膵臓腫瘍のWHO分類
Stage | TNM分類 | 概要 |
Stage I |
T1N0M0 |
腫瘍病変が膵臓のみに限局し、リンパ節・遠隔転移がない |
Stage II |
T1N1M0 |
リンパ節転移あり。遠隔転移なし。 |
Stage III |
T1N1M1, T1N0M1 |
遠隔転移あり。 |
犬のインスリノーマの好発犬種、年齢、性別
- 中型~大型犬:特に、ラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバー、ジャーマンシェパードドッグ、ジャーマンショートヘアードポインター、アイリッシュセッター、ボクサーなど (小型犬では、ウエストハイランドホワイトテリアで多いとの報告あり)
- 年齢の中央値は、9~10歳。範囲は、3~15歳。
- 性別差はなし。
犬のインスリノーマの臨床徴候
インスリノーマの犬では、低血糖による神経系への影響に起因した臨床徴候が生じます。このことを、neuroglycopeniaと呼びます。以下の臨床徴候がみられます。
- 衰弱 (weakness)
- 運動失調 (ataxia)
- 虚脱 (collapse)
- 方向感覚の喪失 (disorientation)
- 行動変化 (behavioral changes)
- てんかん発作 (seizures)
臨床徴候は、間欠的あるいは突発的であることが多いです。また、絶食時、運動時、興奮時あるいは食事時に、臨床徴候が認められることもあります。
患者は、低血糖以外には臨床的に正常であることも多いそうです。
【経歴】
北海道大学獣医学部卒、東京大学獣医外科研究室博士課程
米国ペンシルバニア大学 客員研究員
【所属学会・資格等】
Veterinary Cancer Society (獣医がん学会)
【得意分野】
腫瘍学、免疫学